ICTを産業保健活動の中でどう活用していくか

目次

はじめに

 定期健康診断の事後措置、過重労働対策(長時間勤務者への医師面接)、復職支援の面接、ストレスチェック(高ストレス者への医師面接)など、いずれも産業保健スタッフにとって重要な実施事項ですが、これらの運用には膨大な時間を要することがあります。また、手作業で運用を進めることで、漏れやミスなどが生じてしまうこともあるでしょう。このような場面で、ICTを活用することで、産業保健スタッフの負担を低減するだけでなく、健康管理施策の平準化や、ミスを減らすことにもつながることが期待できます。今回は産業保健活動におけるICT活用のポイントや留意点などを中心に解説したいと思います。

定期健康診断事後措置への活用

 健診事後措置の運用において、事後措置や受診勧奨の対象をピックアップする作業が、まず産業保健スタッフの役割としてあります。健診対象者数が増えると、この作業にかかる工数は比較的大きいものになるでしょう。また、事業場間や医療職間で基準値のバラつきがあると、健康管理対象となる従業員の間で混乱が生じる懸念もあります。このような場合に、健康管理システムなどのICTを活用することで、一定の基準に基づき、事後措置の対象となる従業員を自動抽出することができます

 抽出された対象者に対して、事後措置や受診勧奨等を行っていくことになりますが、これらの過程で発生する面談記録等もシステム上に保管できるとよいでしょう。また、就業制限を要する場合に、就業意見書を発行することになりますが、意見書の開示先が多い場合など、発行のプロセスが煩雑になることもあります。さらに、意見書を発行した後に、時間外労働時間などの制限事項が適切に守られるかもわかりません。意見書の発行もICTを介して行うようにできると、(人事システムとの連携が必要になりますが)開示先をシステムで管理したり、(労働時間情報との連携が必要になりますが)制限事項が順守できているかをモニタリングすることができます。

過重労働対策への活用

 一月あたり80時間の時間外労働が発生する場合など、単純に労働時間で医師面接の対象をピックアップする場合はそれほど大きな負担はかからないものと思います。が、例えば45時間を超過した従業員で定期健診結果に異常がある場合や、問診票で一定の疲労蓄積度を示した従業員など、労働時間とそれ以外の要素を組み合わせて対象をピックアップする場合には、内容や対象人数により工数が増えることが考えられます。このような場合に、ICTが活用できると、一定の時間外労働が発生すると自動的に問診票が該当者に送信されたり、その回答状況により面接対象が自動的に抽出されたりと、産業保健スタッフの負担を低減してくれることでしょう

 面談を行った後には、意見書・報告書を医師が発行することになることと思われますが、就業制限が必要な場合は、前述のように発行のプロセスを管理したり、制限事項の順守状況をモニタリングしたりと、効率的・効果的な運用が可能となります。

復職支援への活用

 復職支援において、そもそも診断書の運用が適切に行われていない(例:診断書が未提出の期間がある)、復職支援が必要な従業員の情報が産業保健スタッフに回ってこないなど、産業保健スタッフ以外の様々なメンバー(管理職など)が関わることでエラーが生じやすくなることが課題としてあげられます。傷病休業の申請をICTで行えるようにすることで、実際は休業を延長しているのに診断書が提出されていないなど、不適切な状況をモニタリング・管理することができるようになります。このような場面で、従業員の自己判断で通院を中断してしまっているような怖い状況がたまに発生しますが、ICTの活用でこれらの予防にもつながるでしょう。また、休業者の情報がタイムリーに産業保健スタッフに回ってくることで、休業期間が1~2週間など比較的短い場合でも、復職支援が必要な対象には事前の復職面談実施を漏れなく指示することにもつながります。

ストレスチェックへの活用

 ストレスチェックを外部機関に委託し、ICTを活用して調査やその後のフォローアップを運用している企業は少なくないものと思われます。ストレスチェックは比較的ICTの活用が進んでいる領域ですが、これまでに述べたことをICTで運用できている企業であれば、ストレスチェックも既存のシステムで管理する方が利便性は高いものと思われます。高ストレス者面談後の意見書の発行管理などはもちろんのこと、ストレスチェックに会社独自の質問項目を盛り込みたい場合などに、比較的スムーズに対応することもできます。

遠隔面談への活用

 コロナ禍を経て、すっかり普及した感のある遠隔面談ですが、これもICT活用と切り離せないものでしょう。場所を選ばずに、在宅勤務者や遠隔地の従業員への対応が容易にできるようになり、訪問と比べて時間の調整がフレキシブルであったり、(移動時間短縮により)より多くの従業員への対応が可能となるなど、産業保健スタッフと従業員の双方にとってメリットはたくさんあります。一方で、情報やコミュニケーション不足により活動の質の低下につながる懸念などデメリットも指摘されております。厚生労働省の通達「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」において、これらへの留意点が示されており、これに準じた運用(以下に一部を抜粋)を行うことが、各産業保健スタッフには求められます。

  • 事業場から産業医に必要な情報が円滑に提供されること
  • 必要時、産業医等が実地で作業環境等の確認をできること
  • 面接指導、衛生教育、安全衛生委員会についてはそれぞれを定めた通達に従うこと
  • 作業環境管理、作業管理、健康障害の原因調査等、定期職場巡視は、産業医等による実地での確認が原則
オンライン面談

引用
厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5802&dataType=1&pageNo=1

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