そもそも何ができるシステムなの?
「健康経営」「人的資本経営」「DX化」といったキーワードがよく聞かれるようになりました。その文脈の中で登場する「健康管理システム」とは、どのようなことができるシステムなのでしょうか。
「健康管理システム」とは、「企業・団体が、労働基準法/労働安全衛生法に則り、従業員の健康を管理するためのシステム」のことを指します。主に管理する内容としては、健診結果、二次検査結果、ストレスチェック結果、残業時間、面談記録、就業判定結果、産業医意見、およびこれに関わる帳票などがあります。
上記のような健康にまつわるデータを管理するためには、煩雑な事務作業がつきものですが、健康管理システムを導入することにより、事務作業の負担を大幅に軽減することができ、産業看護職・産業保健職が本来時間をかけたい業務(保健指導や健康増進施策など)に時間を割くことができるようになります。つまり「健康管理システム」を一言で表すと、「戦略的な健康管理を実現する環境を構築するためのシステム」と言えるでしょう。
健康管理システムについて、より詳細に知りたい場合は、こちらの記事をチェック!
今回は、産業保健に長年携わってきた株式会社エヌ・エイ・シー・ケアが、健康管理システムのメリットとデメリットについてご紹介いたします。(2023年1月13日・更新)
導入のメリット(導入時に期待できる効果)
健康情報の一元管理
健康管理システム導入のメリットのひとつ目は、「健康情報の一元管理が可能になる」という点です。企業や団体にお勤めの従業員・職員の健康診断結果などの健康情報をデータ化して、一元管理ができるようになるため、バラバラに点在する健康情報(健診結果・ストレスチェック結果・残業時間・面談記録など)をまとめることができます。
健康情報をそれぞれ別々のシステムで管理している場合に発生するシステム間の行き来やデータの突合、といった面倒な作業を失くすことができます。
事務作業の効率化
健康管理システムを導入することで「事務作業の効率化」がはかれます。たとえば、従業員が健診を受診するのが複数の健診実施機関である場合、健診結果データのフォーマット(表記・単位・並び順など)がバラバラに届くこともあり、フォーマットを統一するだけで一苦労です。また、健診実施機関によっては健診結果の判定値(別名:診断区分・医療区分)が異なる場合もあり、全体の健康状態を把握するために、統一の基準で判定を付ける作業が必要になります。
「健康管理システム」は、このような統一作業を短時間で正確に実行してくれます。
報告書作成の効率化
従業員の健康診断実施後は労働基準監督署への報告が必要になりますが、多くの健康管理システムに実装されている労基署報告集計機能を利用すれば、「有所見者の数」などをすぐに集計し、算出することができます。
ほかにも、面談記録をつけることができる健康管理システムであれば、システム上で入力した面談記録を、そのまま産業医の意見書に反映することも可能です。
健康状況の把握
各種の健康情報(健診結果・ストレスチェック結果・残業時間・面談記録など)をデータ化し、健康管理システムで一元管理することによって、数値の傾向などから従業員の健康状況を把握できるようになります。たとえば、各事業所や各部署という切り口で数値の把握ができるため、「脂質の高い部署」や「メンタル面での面談が多い部署」などの傾向が分かるようになります。職種的な特性(例:デスクワーク中心/外回り中心など)や地域的な特性(例:味が濃い地域/車通勤が多い地域など)の傾向が分かれば、健康増進施策のヒントにすることができます。
このように、健康管理システムで健康に関するデータを管理することにより、効果的なポピュレーションアプローチの立案ができるようになります。もちろん、健康管理システムは個人に紐づく健康情報が集積していますので、ハイリスクアプローチにも効果的です。
健康情報の複合的な分析
健康に関する情報を一元管理しているからこそ、複合的な分析が可能になります。つまり、健診結果だけでは見えてこない高度な分析ができるようになります。たとえば、残業時間が多い部署の健康課題を掴んだり、BMIが高い部署とストレスチェックデータ結果の相関について考察を加えたりすることもできるでしょう。さらに面談記録の内容を合わせることで、対策を考える際にも役に立ちます。
以上のように、事務作業の効率化、および健康に関するデータの管理・把握・抽出ができる点などが健康管理システム導入の大きなメリットとなります。そして、これらの機能を活用することで、本来注力したい産業保健業務への取り組みが可能になります。
健康管理システム導入のメリット
- 健康情報の一元管理
- 事務作業の効率化
- 報告書作成の効率化
- 健康状況の把握
- 健康情報の複合的な分析
健康管理システムのデメリット(導入時に注意すべきポイント)
続いて、健康管理システムのデメリット(導入時に注意すべきポイント)をご紹介いたします。エヌ・エイ・シー・ケアがこれまで産業保健を支援してきた中で、健康管理システムを導入したにもかかわらず、うまく活用できていなかった企業様のお話をうかがう機会も多くありました。せっかくのシステムが「導入しただけで活用できない」状態にならないためのポイントを中心にご紹介いたしますので、導入の前にぜひご一読ください。
機能が多すぎて使いこなせない/使いきれない
今日ではさまざまな健康管理システムが市場に出回っており、どのシステムを導入すべきなのか、判断に迷うこともあると思います。多種多様なシステムの中から選定する際、多機能なものが魅力的に見えてしまうこともありますが、システムはその機能を使い切ってこそ、はじめて機能的なシステムといえます。
健康管理システムの導入検討時に、複数社の機能を並べた比較表を作成し、機能を有する 〇 の数が多いベンダーを採用するというような企業もいらっしゃいます。しかし、高い料金を支払っているのに、実際には使わない機能ばかり、というケースもあります。
また、多機能であるが故に使い勝手が複雑になる可能性もありますので、本当に使う機能は何か、本当に解決したい課題は何か、を意識して健康管理システムを選定することをお勧めします。
会社によっては産業保健職が数年単位で入れ替わることもあるかと思います。複雑なシステムの運用をしている場合は、新しいスタッフに入れ替わった際の引継ぎ不足やノウハウの連携ができないためにシステムを使いきれず、システムから遠ざかってしまう(使わなくなる)、というケースも考えられます。
産業保健活動における独自の運用に合わせられない
健康管理システムはクラウド型のシステムが主流になりつつありますが、カスタマイズには柔軟に対応できないものが多いという傾向があります。各社独自の産業保健活動、運用がある場合、対応しきれない場合があります。
もちろん、産業保健活動そのものを、新たに導入するシステムの運用フローに合わせるというのもひとつの対応です。しかし、どうしても譲ることができない産業保健活動・運用がある場合は、健康管理システムの選定に際して、設定の変更・カスタマイズ・オプションなどの対応で「やりたいことが実現できるシステム」かどうかも見極めましょう。
費用対効果が表しにくい
「費用対効果」という切り口は、健康管理システム導入にあたり一番大きな障壁となっている、と言っても過言ではありません。プレゼンティズムやアブセンティズムも重要な要素ではありますが、健康管理システムの導入により、どれだけ生産性が向上したか、を数値として表現するのは難しいという側面があります。「産業保健職の業務効率化」という点で考えると、「残業時間の削減」などが数値化できる部分ではありますが、それ以上の費用対効果を数値で表すのは非常に難しいといえます。
健康管理システムの導入に始まる産業保健への取り組みは、単に「費用対効果」を求めるものではないのですが、「従業員の健康管理」に対する経営層の意識が正しい意味で高まっていないと、導入の障壁になることがあります。この部分の説得は難しい部分ではありますが、下記の側面から必要性を説明し、承認を得るのも良いでしょう。
- 健診の実施、事後措置等を正しく実施しているという「コンプライアンス」
- 従業員からの万が一の訴訟などの際に、対応の記録となる「リスクマネジメント」
- 従業員の健康管理を行う上での最低限の環境である「インフラストラクチャー」
※用語の解説
プレゼンティズム(プレゼンティーズム)
…従業員が出勤してはいるが、疾病やメンタル面での問題が作用し、業務遂行能力や生産性などの
パフォーマンスが上がらない状態のこと。たとえば肩こりや腰痛、二日酔いなど。
アブセンティズム(アブセンティーズム)
…体調不良や疾病などの原因による遅刻・早退・欠勤・休職などの目に見えて勤務ができない
状態のこと。通院のための早退や労働災害による休職など。
問合せ対応のレスポンスとクオリティ
健康管理システムを導入したあと、システムの使い方が分からないケースが発生した場合、ベンダーに問合せをすることもあるかと思います。特性上、機微な情報を扱うシステムであるため、疑問や課題などは確実・正確・早急に解決したうえで、産業保健活動を進めていきたいところです。
導入した健康管理システムを提供するベンダーによる問合せへの対応に時間がかかってしまう場合、産業保健活動がストップしてしまう恐れがあります。また、多くの健康管理システムはIT関連の会社が提供しているプロダクトであるため、産業保健に携わる専門職から問合せをしても、産業保健に関する言葉や文脈、課題感をベンダーの担当者が理解してくれないこともあるでしょう。
このように、産業保健活動を順調に、継続的に行うためには、導入の際に「どのようなアフターフォロー・サポートをしてくれるのか」も必ず確認しておく必要があります。
少し前時代的かもしれませんが、困ったときにその場で電話でも親身に対応してくれるかどうかで導入後の安心感は大きく変わります。加えて、産業保健に関する知識・ノウハウを豊富に有するベンダーかどうか、を確認したうえで健康管理システムを導入すれば、導入後の想定外のストレスを感じることもないでしょう。
導入を失敗しないために
ここまで、健康管理システム導入のメリットとデメリット(導入時の注意すべきポイント)をご紹介してきました。それでは一体どのようにシステムを選定していけば良いのでしょうか。数々の企業様における健康管理システムの導入を支援してきたエヌ・エイ・シー・ケアが、導入を失敗しない秘訣をお伝えします。
課題を明確にする
まずは健康管理システムを導入するに際して、課題を明確にしましょう。健康管理業務や産業保健業務における課題は何なのか、それをシンプルに考えてみて、解決したい課題の優先順位をつけましょう。たとえば、弊社がよくうかがう課題としては以下のような内容があります。
- 健診結果がいつも紙で届いて、Excelに手入力をしていて、入力誤りが心配
- 定期健診だけではなく特殊健診もあるので管理が大変
- 面談記録を紙で管理しているので、どのような面談が多いのか分析がしづらい
- 健康情報が散在しているので、複合的に社員の健康状態を把握できない など
一例をご紹介しましたが、各社によって、課題は異なるはずです。人事部・総務部・保健師・看護師・産業医・情報システム部門などの関わるスタッフで課題を洗い出してから導入の検討を始めましょう。
課題からベンダーを選定
次に、洗い出した課題を解決してくれるベンダーを選定しましょう。ここでは弊社が経験した事例をもとにご説明します。例えば、「健診結果の紙管理を電子化したい」という課題がある場合、どのように解決をすれば良いでしょうか。
ベンダーによっては、指定の健診機関で健康診断を受診することで、健康管理システムに自動で結果データが反映されるような提案や、ベンダーが格安でパンチ入力を行うような提案をしてくる場合もあります。どちらも魅力的に思えますが、ここでの注意点は、課題をシンプルに考えることです。「紙管理を電子化したい」という課題を解決するために、従業員に指定の健診機関を受診してもらうようにするには別の負荷やコストがかかることもあります。また格安のパンチ入力も所要時間がどれくらいか・精度がどれくらいかを確認してから始めないと、思いのほか時間がかかる・入力誤りがあった時に別の問題が生じる、など電子化どころではなくなります。
シンプルな課題に対して、各社の産業保健の状況を考慮したうえで伴走し、環境を整えてくれるベンダーかどうかをしっかり確認しましょう。
紙の健診結果のデータ化についてはこちらの記事もご覧ください
最後の重要なポイントはウェビナーへ
導入を失敗しないための最後のポイントは「導入前後の健康管理システムの運用について、しっかりイメージする」ことです。詳細は弊社の無料オンラインセミナー(ウェビナー)でご紹介いたしますので、興味のある方は是非ご覧ください。健診結果の電子化を解決してくれるベンダーの提案についても、ウェビナーの中で触れております。皆さまのお申込みをお待ちしております。
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