はじめに
たばこの煙には、約5,300種類の化学物質が含まれており、そのうち、発がん性物質は70種類以上ともいわれています。喫煙は、がん、循環器疾患(脳卒中・虚血性心疾患)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病に共通した主要なリスク要因であり、日本においては喫煙により年間約19万人が死亡しているという推計が報告されています。長年たばこを吸っていても、禁煙するのに遅すぎることはなく、何歳から禁煙を始めても様々な健康改善効果が期待できます(図1参照)。

出典:厚生労働省・e-ヘルスネット「禁煙の効果」
「令和5年国民健康・栄養調査」1)によれば、日本における喫煙率は15.7%であり、男女別の内訳では、男性25.6%、女性6.9%です。この10年間でみると20.1%から15.7%へと減少傾向がみられます。しかしながら、喫煙者の中でたばこをやめたいと思う者の割合はわずか20.7%(男性:19.7%、女性:23.9%)に過ぎません。喫煙者の一人一人が自発的に行動変容をおこし、禁煙に取り組むのは簡単なことではありません。
禁煙推進のために職場でできること
職場で比較的簡単にできる喫煙者比率削減への取り組みとして、たばこの害・禁煙のメリット等に関する情報提供、禁煙教室の開催などがありますが、情報にアクセスしたり、イベントに参加するのは、禁煙への関心が高まっている一部の層に限られることが多いのではないでしょうか。できれば禁煙に関心がない層もターゲットにしたいところですが、この層にアプローチするのはなかなか容易なことではありません。喫煙者比率削減のためには、個人を対象にした教育的アプローチはもちろん必要ですが、それだけではなく、個人の禁煙への関心度に依存せずに禁煙に取り組み始めるような環境的アプローチについても検討していくことも重要でしょう。
喫煙者の行動変更のためのアプローチ
職場としての介入のレベルを、個人・職場・事業所・全社の4つに分類します(図2参照)。個人レベルの取り組みにおいては、従業員個々の知識・スキル・信念に働きかける教育的アプローチが主体になります。一方、職場・事業所・全社レベルの取り組みにおいては、喫煙者が自然と禁煙に取り組み始めるような環境的なアプローチが主体になるでしょう。この中でも、職場レベルでは従業員同士の社会的支援(ソーシャルサポート)を、事業所レベルでは職場環境の改善を、全社レベルでは方針・規程等を活用しながらアプローチを進めていくことになります。例えば、一人で禁煙に取り組むよりも、周囲に禁煙宣言をしてから禁煙を始める方が、禁煙には成功しやすくなることが考えられます。禁煙宣言により、他の喫煙者から喫煙所に誘われることを回避したり(喫煙者が誘うのを遠慮したり)、周囲の非喫煙者からの励ましを受けられたりと、職場内の社会的支援を受けやすくなることでしょう。また、例えば、就業中の喫煙可能な時間が制限される、喫煙所が建屋から離れた場所に移設されるなど、喫煙者が喫煙所にアクセスしにくい状況になると、喫煙回数・本数などが自然と減っていくことが期待されます。就業時間内の喫煙に関する方針や規定も、喫煙者割合の削減や受動喫煙対策においては、大きな力を発揮することが期待できます。なお、取り組みを進めるにあたっては一方的に進めないことも大事で、衛生委員会等の場で、喫煙者・非喫煙者双方の意見を聴くことも必要でしょう。また、ある程度の猶予期間を持たせながら、段階的に進めることも喫煙者の負担軽減につながる一つの方法でしょう。
企業における取り組み例
以下、それぞれのレベルで取り組めそうな内容をいくつか例示します。
●個人レベル(教育):
・たばこの害・禁煙のメリット等に関する情報提供
・禁煙を促進するITツールの活用
・セミナー・〇〇教室の開催(例:禁煙教室)
●職場レベル(社会的支援):
・禁煙宣言者への周囲の支援
・職場の懇親会での禁煙化
●事業所レベル(職場環境改善):
・喫煙所の数・設置場所の見直し(例:建屋から離れた場所に設置する)
・喫煙所内の椅子を撤去
・禁煙タイムの設定(喫煙所利用可能時間の制限)
●全社レベル(方針・規程):
・敷地内禁煙化
・勤務時間内の喫煙禁止
・禁煙外来利用への補助金制度

出典:社会生態学モデル2)を改変
次のアプローチに向けて
取り組んだ内容については、きちんと評価をして、次の活動につなげていくことが重要です。参加率・継続率など取り組みのプロセス評価はもちろんのこと、実際に禁煙成功者の増加や禁煙関心度の変化につながっているかなどアウトカム評価も行っていくことになります。これらの評価結果を衛生委員会等の場で議論し、継続・改善・新たな取り組みの導入など次のアプローチにつなげていけるとよいでしょう。
参考文献
1) 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」2023
2) Sallis JF, Owen N. Ecological Models of Health Behavior. In Health Behavior: Theory, Research, and Practice, 5th ed. 2015; 41‒64.