従業員の健康・安全を推進するための方策

従業員の健康・安全を保持・推進することは、基本的かつ重要な企業活動の一つと考えられます。今回は、①メンタルヘルス対策、②生活習慣病対策、③有害作業対策、④職場の感染症対策の4つに絞って概説します。

なお、日本産業衛生学会・中小企業安全衛生研究会のホームページ(※)上で、今回取り上げた4つのトピックに関する好事例集を公開しております。産業保健専門職のいない中小企業においても、手軽に取り組んで頂ける分かりやすい取り組み(ちょっとした工夫)が中心となっておりますので、ぜひ合わせてご参照ください。文中でも関連する事例を抜粋して紹介しております。

目次

メンタルヘルス対策

メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)、不調の早期発見と適切な対応(二次予防)、休職者の職場復帰支援(三次予防)をバランスよく実施していくことが重要となります。 

一次予防では、ストレス対策が中心となり、集団と個人に対するものの大きく2つに分けられます。集団のストレス対策については、ストレスチェックの集団分析結果を基にした職場環境の改善などがイメージしやすいと思います。が、職場で普段から行っている従業員にとって働きやすい環境づくり(例:オンラインイベントによる連帯感の醸成※)がそのまま一次予防につながっていることも多々あります。このように職場のちょっとした工夫で十分な対策となっていることも少なくなく、「メンタルヘルス対策の一次予防って難しそう」と構えずに、ぜひ職場で取り組んでいきましょう。

※参考事例「オンラインイベントによる連帯感の醸成」中小企業安全衛生研究会

生活習慣病対策

生活習慣病対策の中では、定期健康診断の活用、過重労働対策、がん対策などへの取り組みが特に重要と考えられます。

定期健康診断の活用においては、まずは事後措置(就労判定等)を適切に行っていくこと[安全配慮義務の履行支援]はいうまでもなく、受診勧奨・保健指導等も適宜実施するなど[医療上の措置]、健康診断を受けっぱなしにしない対応が重要となります。

過重労働対策(例:高齢トラック運転手の働き方改革※)を行うことで、過労死の防止につながるだけでなく、高齢労働者など誰にとっても働きやすい環境になっていくことが期待されます。また、睡眠時間等を含めた十分な生活時間を確保することで、例えば遅い時間帯の夕食が減るなど、生活習慣改善にもつながることでしょう。

従業員の高齢化に伴い、ますますがんに罹患する従業員が増えていくことが予測されます。このため、がん検診等を含めたがん対策を企業で推進することも重要といえます。

※参考事例「高齢トラック運転手の働き方改革」中小企業安全衛生研究会

有害作業対策

有害作業対策、中でも化学物質の管理は近年大幅な法改正が次々と行われており、重要なテーマの一つとなってきました。これまでは有機溶剤中毒予防規則等の法規制に対応していればよかったのですが、これからは企業自らが考えて適切なばく露低減策(自律的な化学物質管理※)を講じていくことが必要となります。

※参考資料:厚生労働省. 新たな化学物質管理~化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ~.

 日頃の業務改善活動が有効なばく露低減策につながっていることも少なくなく(例:中小企業における有機溶剤管理の1例※)、「自律的な化学物質管理って難しそう」と構えずに、ぜひ職場で取り組んでいきましょう。

※参考事例:「中小企業における有機溶剤管理の1例」中小企業安全衛生研究会

職場の感染症対策

新型コロナウイルスは令和5年5月から5類相当に移行しましたが、まだ日本では集団免疫は確立しておらず(令和5年7月末時点)、今後も流行の波を繰り返すことが予想されます。基本的な感染症対策はしばらく継続していくことが必要でしょう。

 また、将来、別の新たなウイルス等によるパンデミックが生じ、事業継続計画(BCP)の発令が必要となる事態が起こることも想定しておく必要があります。今回のコロナ禍での各社の対応(例:会社の中枢機能を守る工夫※)は、そのような危機的な場面において大変参考になることでしょう。

※参考事例:「会社の中枢機能を守る工夫」中小企業安全衛生研究会

この記事を書いた人

今井 鉄平 氏
OHサポート株式会社 代表 産業医

2022年、日本産業衛生学会奨励賞受賞
【資格】

  • 産業医
  • 日本産業衛生学会専門医・指導医
  • 医学博士
  • 労働衛生コンサルタント
  • 社会医学系指導医
  • Master of Public Health (MPH)
  • 経営管理修士(MBA)


【所属学会】

  • 日本産業衛生学会(前産業衛生学雑誌編集委員)
  • 日本疫学会
  • International Commission on Occupational Health
  • 日本内科学会
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 他
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